日本→台湾の越境ECの障害?台湾通関アプリ「EZ WAY 易利委」の仕組

EZWAY

最近、台湾への「越境EC」の相談が増えてきました。その中で台湾通関アプリ「EZ WAY 易利委」についての話が出ることも多いです。しかしそもそもの通関の仕組みも含めて理解していない方が多いようですので、ここで解説することにしました。

「EZ WAY 易利委」に関する誤解

日本・台湾を問わず多くの方が誤解しているのですが、「EZ WAY 易利委」の対象となるのは民間国際宅配便(かつ小口荷物むけの簡易通関が適用される場合)のみです。EMSや小形包装物や国際小包など国際郵便は対象ではありません。

また「EZ WAY 易利委」を使わないと輸入できない・返送されるというのも正確ではありません。

こういう誤解が広がったのは、おそらく関連する法規則を原典・原文に当たってチェックしていないことに理由があるかと思われます。

民間国際宅配便と国際郵便で違う通関の仕組み

そもそも民間国際宅配便と国際郵便では適用される法規則に違いがあります。

民間国際宅配便の簡易通関では内容物・数量・課税価格・適用される税率等を運送業者(正確には通関業者、運送業者と兼ねていることも多い)が申告し検査を受ける「申告納税方式」が採用されています。基本的に運送業者が毎回申告するわけですから、関税などが見逃されることはなく課税される時は必ず課税されます。

国際郵便では課税価格が5,000米ドル超えるもの等を除き申告が不要であり、税関職員が必要と判断した貨物についてのみ検査を行い、適用される税率を決める「賦課課税方式」が適用されています。

国際郵便では税関職員が必要と判断した貨物についてのみ検査する関係上、本来課税される場合でも、何も言われずに届く場合もあります。平たく言えば国際郵便の方がそこまで厳密ではないと言えます。

ちなみに課税価格とは税金を計算するベースとなる価格の事です。通常は買手から売手に支払った価格+運賃等の費用を加えたものです。

民間国際宅配便の通関手続の厳格化

昔は個人輸入などはそんなに多くはなかったので民間国際宅配便の場合は毎回送られてくる荷物の課税価格が2,000台湾元以内で酒やたばこなどの例外でなければ免税、それ以外であれば課税・・・であまり問題はありませんでした。

しかし最近は越境ECの拡大で免税額以下での頻繁な輸入などが増え、結果的に関税などの取りこぼしになるケースが増えてきました。

正確に言えば、頻繁に輸入する場合は免税額を適用しない規則はあったのですが、そもそも各輸入者の輸入回数を厳密に管理していなかったので、規則があまり厳密に運用できなかったのだと思われます。

また、以下のような不正が目立ってきており、通関の厳格な管理が必要となってきていました。

  • 故意に複数回に分割して輸入:例えば10,000台湾元の商品を輸入する予定だったのを、故意に5回に分けて輸入し、毎回課税価格を2,000元で申告することで課税を逃れる。
  • 課税価格を故意に低く申告:例えば10,000台湾元の商品なのに、2,000台湾元と申告して課税を逃れる。
  • 偽名や他人名義で申告:様々な事情で偽名や他人名義で輸入する。

しかし今までのように書類ベースで厳格化を進めようとすると以下のような問題がありました。

  • 税関・運送業者・輸入者の間で様々な書類のやり取りが発生する。
  • 様々な書類のやり取りをしているうちに、時間がかかってしまう(通関に時間がかかると倉庫から荷物があふれるなどの致命的な問題になりえる)。
  • 手続には輸入者から運送業者への委任状が必要で、委任状には輸入車の個人情報の記載やそれを確認するための身分証明書のコピーなどを送る必要がある。
  • 偽名や他人名義での不正申告を防ぐため、運送業者で輸入者の本人確認のためにを要求する必要があったが完全ではない。
  • 運送業者が変わると再度委任状を運送業者に提出する必要がある。
  • 同じ運送業者であっても、単発での委任だと毎回委任状を出す必要がある。単発ではなく、長期で委任することも可能だったが、その場合は委任する事項が広範囲すぎ、輸入者にとってリスクがある。

IT導入で厳格化・迅速化・個人情報保護の全てを満たす

そこでIT導入によって通関の厳格化・迅速化・個人情報保護すべてを進めることになったわけです。もちろん台湾税関当局的には関税収入をしっかり確保する目的が一番の動機ではないのかなと思うのですが、関税収入が漏れなく取れればIT導入のコストも賄えるわけで、その辺はコスト対効果を見極めて導入に至ったのだと思われます。

海外ECサイトで購入する台湾の消費者には「EZ WAY 易利委」というアプリが配布され、スムーズな通関のための以下のような機能が整備されました。

  • 本人確認 (アプリを入れたスマートフォンの携帯電話番号や身分証明書の写真撮影など)。
  • アプリ運営会社による消費者の個人情報の一括管理 (アプリ運営会社は台湾政府が主な株主の半官半民企業)。
  • 運送業者は携帯電話番号が分かれば、消費者の個人情報を知らなくても、消費者に通関する荷物の概要を知らせ、通関の可否を確認できる。
  • 消費者はアプリ上で運送業者からの問い合わせをチェックし、ボタン一つで通関業務を委任できる。
  • 運送業者は携帯電話番号が分かれば、消費者の個人情報を知らなくても、過去半年の免税額以下での通関回数をチェックできる(これに合わせて免税額以下での輸入は1名あたり年12回回以内・半年6回以内という具体的なルールも策定、もちろん回数は消費者自身でもチェックできます)。

「EZ WAY 易利委」を使わないことも可能だが・・・

「EZ WAY 易利委」の導入は通関手続の厳格化と迅速化や個人情報保護を両立することが目的ですが、「EZ WAY 易利委」を使わないことが違法になるわけではありません。「EZ WAY 易利委」を使わない場合でも、必要書類を出して運送業者に通関申告を委任すれば通関は可能です。あくまでも法律的に要求されているのは実名で通関することです。

ただ毎回紙のやり取りは面倒ですし、運送業者に身分証明書のコピーなどを渡す必要もあります。運送業者にとっても手間なので場合によっては「書面での手続はお断り」となるかもしれません。

「EZ WAY 易利委」普及進む

台湾財政部關務署によると、2021年06月30日時点で「EZ WAY 易利委」アプリで登録した人数は312.6万人余りになったとのことです。台湾の人口が2,300万人余りですから、7~8人に1人は登録していることになります。

台湾では中国大陸からの出品が多いECサイトがあり、価格の安さなどの魅力から、結構売れています。また地理的条件もあり、空運・海運ともに充実し、中国大陸出荷であっても、台湾のコンビニ受け取り・支払などが使えるなど、物流や決済サービスも充実しています。

こういった中国大陸からの出品が多いECサイトは、消費者に「EZ WAY 易利委」アプリを登録してもらわないと死活問題でしょうから、かなり登録を推奨し、やり方も分かりやすく解説していました。

また「EZ WAY 易利委」を開発・運営している会社は台湾政府が主な株主の半官半民企業ですが、電話やチャットによる対応も行うなど、かなり丁寧なカスタマーサービスをしている印象があります。筆者も連絡したことがありますが、かなり迅速な対応でした。

上記のような事情があって、失礼な言い方をすると「上から押し付けたアプリの割には」普及が進んだのではないかと思います。

越境ECの勢いも止まらず

「EZ WAY 易利委」の利便性は低くはないですが、やはり登録は少し面倒なので、それが越境ECの勢いに影響を与えるかと思ったのですが、統計を見る限りはほとんど影響がないと言ってもよさそうです。

申告件数通関額
2017年3605万0091回410億5163万1000元
2018年4649万4472回393億5424万0000元
2019年6223万0563回459億0009万3000元
2020年6320万1965回442億5741万8000元
2021年6012万9255回521億9439万9000元
民間国際宅配便・簡易通関の統計

上の表は民間国際宅配便でかつ小口荷物に使われる簡易通関で通関した荷物の数量とその通関額です。「EZ WAY 易利委」が事実上強制になったのは2020年(05月16日)ですが、2021年になってもそれほど件数は減っていませんし、通関額、つまり買った金額は2020年を上回っています。

民間国際宅配便+簡易通関の全てが越境ECとは限りませんが、かなりの部分を占めるはずなので、この数字の増減で越境ECの勢いが読み取れます。

でも「ノリと勢い」で越境ECをやってはいけない

結論としては「EZ WAY 易利委」は越境ECの障害になるとは言えません。しかしながら「ノリと勢い」で越境ECをやるのはお勧めできません。

確かに台湾に拠点を作ったり、代理店を置いたりして、正式に輸入するより、ハードルは低いですが、台湾の消費者に個人輸入の形で購入してもらう場合でも商品の種類によっては様々な規制があり、簡単に配送できない場合があります。

また交換や返品への対応など、具体的にビジネスの流れを考えると越境ECは決して簡単なものではありません。

台湾向けに越境ECを行うのであれば、市場調査や個人輸入に対する規制など、やはり現地事情の調査は必要だと思います。

参考文献 (クリックすると一覧を表示)
  • 海關進出口統計 (https://portal.sw.nat.gov.tw/APGA/GA35、2022年04月17日閲覧)
  • 空運快遞貨物通關辦法-全國法規資料庫 (https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=G0350064、2022年03月29日、2022年04月17日閲覧)
  • 進口快遞貨物報單成長趨緩,EZ WAY使用友善再提升-財政部全球資訊網 (https://www.mof.gov.tw/singlehtml/384fb3077bb349ea973e7fc6f13b6974?cntId=46c3a6a17ccd470bb3e45fffb51422cc、2021年07月13日、2022年04月17日閲覧)

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