スタートアップ・ベンチャー・非製造業の「ものづくり」の壁は台湾との協業で乗り越えよう

2012年出版の「MAKERS 21世紀の産業革命が始まる」で3Dプリンタなどを活用して個人で「ものづくり」を行う「メイカームーブメント」が注目されました。しかし少量の手作りから量産に進むには大きな「壁」が存在します。その際に台湾をどう活用すべきでしょうか?

0→1の壁、EVT (技術検証試験)

ゼロから「ものづくり」をする場合、まず動作する試作品を完成させる「0→1の壁」があります。この段階はEVT (Engineering Validation Test、技術検証試験)と呼ばれます。

この段階では試作品は電子基板のみでケースがないことが多いと思います。また基板のサイズも最終製品よりも大きいことが多く、あくまで電子回路などの技術検証用に用いられるものです。

EVTの段階では、余り新しい機能がなく、手堅い保守的な設計であれば、1回の試作で終わる場合もあります。逆に新しい機能が入り、それが革新的な場合は、一度の試作では上手く行かず、何回か試作を要する場合もあります。

1→10の壁、DVT (設計検証試験)

次は「1→10の壁」です。この段階はDVT (Design Validation Test、設計検証試験)と呼ばれます。

この段階では電子基板は部品の実装密度が上がり、最終製品と同じサイズにまで小さくなりケースに入れられます。ケースはレーザーなどで削り出したり、3Dプリンターや耐久性の低い簡易金型(試作金具)を使ったりして製作し、デザインに問題がないことを確認します。ケースなどの外観に関しては「モックアップ」という言い方も良くされます。

接続端子や無線通信などが仕様に合っているか、またケースの構造などメカニカルな部分に問題が無いか、またユーザーの操作を想定した操作試験、全体的な機能や性能試験なども行われます。防水・防滴・防塵・放熱・冷却などの確認などもこの段階で行われることが多いです。

10→100の壁、PVT (生産検証試験)

いよいよ「10→100の壁」、PVT (Production Verification Test、生産検証試験)と呼ばれる段階に入ります。コストや品質をしっかりコントロールしながら量産するために必要な検証です。

この段階では工場での大量生産の前に、製品が大量生産に適した設計になっているかを確認します。また大量生産に必要な金型、治具、工具、測定機器、設備などもチェックします。

特に重要なのは品質管理のための試験方法です。例えば製品に温度センサーが搭載されているとします。量産時の試験方法に関してはこんな選択肢が考えられます。

  • 全量実際に温度を変えられる試験環境に製品を置いて、正確な温度が測定できているか確認。
  • 全量ではなく、一部の抜き打ち検査。この場合何個に1個抜き打ち検査をするのかも考える必要がある。
  • 部品メーカーによる検査を信じる。製品では試験を行わない。通電試験を行い、MPUから温度センサーをチェックし、それが正常の範囲であればOKとする。

コストや製品の温度測定に求められる精度なども踏まえた上で、品質管理をどうやって行くか決めていく必要があるのです。

クラウドファンディング成功例の多くは量産直前で募集?

企業がクラウドファンディングなどで購入希望者を募って資金調達に成功しても、実際に納期通りに製品が完成することは珍しく、更に言えば製品開発そのものが成功する可能性も低いという話がありました。

アイデア程度で募集すると最初の「0→1の壁 (EVT)」から、電子基板で動作確認をしたレベルで募集すると2番目の「1→10の壁 (DVT)」から挑戦しなくてはならず、量産までの難易度は当然高くなります。

筆者の見るところ、クラウドファンディングで製品開発が上手く行き、納期もそれほど遅れていない「成功」例は、実は別途資金を集めて3番目の「10→100の壁 (PVT)」、すなわち量産の検証まで完了していることが多いと思います。少なくとも2番目の「1→10の壁 (DVT)」はクリアしている案件がほとんどのように思います。

3番目の量産の検証まで進めていながら、どうしてクラウドファンディングを使うのかというと、注目を集めるためなどの、マーケティング目的でクラウドファンディングを行っているのです。

1個でも試作してくれる?御冗談でしょう?

よく「深圳(深セン)では1個からでも試作してくれる」とか言う方がいらっしゃいます。そういう方に「実際どこの工場で何の試作を依頼したのですか?」と尋ねると実は雑誌やネットの記事の受け売りであることが少なくありません。

また別の記事で書きたいと思うのですが、台湾でも深センでも売れ筋の製品のコピーなどで既製の部品やモジュールなどがたくさん出回っている物であれば、そういう物を買って組み合わせることで、小ロットでも短期間で製品が出来上がります。

しかし本当にゼロから製品を試作する場合はそんな簡単な話ではありません。一時期多かった「深セン礼賛」記事の中には中国語圏の事情や製造現場の知識が全くない人が書いている物もあるので注意が必要です。

台湾EMS企業によるスタートアップの取り込み

台湾にはシャープ買収で有名な鴻海(ホンハイ)精密工業を始めとするEMS(電子機器受託製造サービス)企業が多数存在し、中国大陸なども含めて多くの工場を持ち、豊富な試作や量産の経験を持っています。

元々EMSは量産経験がある大企業からの大口の製造受託がメインで、スタートアップなどのハードウェア製造経験に乏しい企業との協業に慣れているとは言い難いものがあったのですが、近年台湾のEMSは「言われた通りに作る」だけではなく、試作や製造に関するアドバイスなど、コンサルティングサービスに力を入れています。

特にスタートアップ企業に対しては台湾で専門の窓口を設ける例も出ており、自社でブランドを持たず、受託製造・水平分業で成長してきた台湾の製造業が、どうメイカームーブメントやスタートアップと協業していくのか、モデルを模索しつつある状態です。

スタートアップが大化けする例も

スタートアップ企業の場合、色々なアドバイスが必要な場合が多く、大企業からの受注に比べると手間暇がかかるようですが、そんな中で成功事例も出てきており、年間売上10億米ドルを突破し、上場を果たしたスタートアップ企業もあります。

台湾の中小EMS企業と組むのがやりやすい

スタートアップ企業などでの「ものづくり」の場合、初期の生産量は多くなく、大規模な生産ラインでは逆にコストが上がるため、小規模な生産ラインを持っていて、小回りの利く、中小のEMS企業に協力してもらう方が良いように思います。

台湾の中小EMS企業は生産ラインが小規模なだけで、生産・品質管理に関しては経験を積んでおり、小回りの利く分、世界の大手企業から受注を集めている企業がほとんどです。

参考文献 (クリックすると一覧を表示)
  • Why 84% of Kickstarter’s top projects shipped late (https://money.cnn.com/2012/12/18/technology/innovation/kickstarter-ship-delay/index.html、2019年10月10日閲覧)
  • 開發新產品有三個驗證階段(EVT/DVT/PVT)解說 | 電子製造,工作狂人 (https://www.researchmfg.com/2010/07/evt-dvt-pvt/、2019年10月10日閲覧)
  • 由下往上的創新力量更強,緯創執行長黃柏漙要公司「不再只有一條滑水道」|數位時代 (https://www.bnext.com.tw/article/42191/wistron-ceo-robert-huang-innovation-plan、2019年10月10日閲覧)
  • 隱身新竹鄉下的傳統工廠 如何變成「創客界的鴻海」?|產業|製造|2019-04-16|即時|天下雜誌 (https://www.cw.com.tw/article/article.action?id=5094770、2019年10月10日閲覧)

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